先日、若くしてご主人を亡くされたSさん。
Sさんはご主人と二人で飲食店を営んでおり、
たいそう繁盛していたそうです。
しかし、その時は突然にやってきました。
ご主人はある日倒れて病院に搬送され、
あっと言う間に息を引き取ってしまわれたのです。
なんということでしょうか、
明日のことは誰にも分からないものですが、
突然の不幸に見舞われたSさんの悲しみは、
そう簡単に癒えるはずもありません。
Sさんのお話しを聞くことしかできない私も
あまりにも無力です。
ご主人のお葬式はご遺族だけでしめやかに行う予定でした。
しかし、始まってみると200人以上もの参列者がありました。
訃報を聞いたお店の常連さんたちが、集まってくれたのす。
「あの人、こんなに慕われていたのですね」
Sさんは驚きながらも嬉しかったそうです。
Sさんご夫婦は共に再婚で、
再婚された時にはそれぞれにお子さまがありました。
Sさんご夫婦の間にはお子さまはありません。
現在お子さま方は家庭を持ち、立派に独立されています。
さて、いよいよご主人のお骨をお墓に納骨するのですが、
ご主人の実家のお墓というのは戦前からあるお墓で、
かなり墓石が劣化しているものでした。
年月を経た墓石は、表面がでこぼこで、
刻んだ文字も読み取れなくなっています。
ご主人がお元気だったころ、二人でお墓参りをした時に
Sさんは思わず言ったそうです。
「私もここに入るの?」
隣にたつ新しい墓石に比べると、
あまりにも小さく見劣りするように思えましたし、
なによりもSさんは、その墓に入っている方々と
全く面識がなかったのですから。
ご主人が亡くなったいま思うことは、
「きれいなお墓に建て替えてあげたい。」
「そのみすぼらしい墓に主人を入れるのは、
あまりにもかわいそうだ」ということでした。
しかし建て替えたところで、
Sさんが亡くなればお墓を守ってくれる人もいないし、
いっそこの機会に永代供養にするべきでは?
─ともお考えのようでした。
当寺の永代供養をご覧になって、
「夫婦のお墓「絆」がいいなぁ、二人の名前を並んで刻めたらな」
と思ったそうですが、
Sさんの立場で、先祖代々のお墓を
永代供養にするということが許されるのだろうか、
他府県に暮らす主人の兄弟は許してくれるのだろうか、
そんな不安もお持ちのようなのです。
私としては、お墓の後継ぎがいないことが分かっている以上、
永代供養にされることが望ましいのではないかと思います。
Sさんがお望みの「夫婦のお墓」を建てて、
同じ場所でご先祖のお骨も供養することができますので。
その場合は、事前にしっかりとその旨をご主人のご兄弟に伝え、
皆さんに納得していただくことが大切ですが…。
大丈夫です。
きちんとありのままをお話しすれば
納得してくださるケースだと思います。
今までお墓を守ってきたのはSさんご夫婦なのですからね。
Sさんに限らず、先祖代々受け継いできたお墓を
自分の代で閉じてしまうことは、
少なからず心苦しい思いをすることです。
しかし、無縁墓になってしまう前にきちんと整理をしておくことは、
そのお墓を守る最後の人として責任を果たしたということで
感謝されるべきことではないでしょうか。
同じようなお立場の方がいらっしゃれば、
ご自身が元気なうちに親族とお墓の話しをしたり、
お墓の行く末を決めておくことが大切だと思います。
Sさんのご主人のお葬式の帰り道、
ふと空を見上げると、天へと昇っていく
龍のような形をした雲があったそうです。
「うわぁ〜。」みんなでそれを見上げ、
「あれきっとお父さんやで。」
そんな話しをしたのだそうです。
そうかもしれませんねぇ。
今もきっと空からSさんを見守ってくださっているはずです。